1グラムの思考

思ったことを文字におこしているだけのブログ

否定の話

知り合いと話していたら、唐突に「否定の仕方がうまいね」と言われた。思えば、以前も似たようなことを言われたことがある。威圧感がないだとか、否定されてもすっと受け入れられるだとか。話している最中はとくに意識しているわけではないのだが、せっかくなのでどのようにしているのかをまとめてみようと思う。


そもそも上手な否定とは何なのか。わたしなりの解釈だが、不快感を与えずにいかに受け手に考え直させるか、だと思う。よって、「不快感を与えない」と「受け手に考え直させる」というふたつの視点から書いていく。


まず「不快感を与えない」ためには、当たり前だと思われるかもしれないが「強い否定語を使用しない」というところから始まる。「それは違う」「間違っている」「いや」「そうじゃなくて」などが挙げられる。大半の人間は真っ向から否定されると身構えるものだ。英語では defensive と言うのだが、ようは防御的になってしまうことである。自分を守らなければ、自分を正当化させなければ、という意思が生まれ、感情に流されてしまって論理的な判断が出来なくなる可能性がある。受け手からも「でも」「とは言うけど」などの否定語が引き出されるようになって議論が進まなくなるので、上記に挙げたような否定の仕方はやめたほうがよい。ひとつ実例を出そう。以下の例はわたし(A)が同僚(B)に仕事の説明をしていた時の話である。

A「… なので今回はこういう方向で進めようと思う。」
B「それって先月やったようなものだね。」
A「先月はコスト重視だったけど、今回はどちらかと言うと結果重視かな。」

ここでは A は「先月とは違う」とはっきり言うのではなく、否定を含まずに違いを説明している。間違っているのならはっきり間違っていると伝えるのが一番効率が良い、という反論があるかもしれないが、最初の否定を除外するだけで受け手は前向きにこちらの言葉を捉えてくれるのだ。上でも書いた通り、否定されると一瞬で心のバリアが出来て、こちらの言葉は受け手の防御フィルターを通って、結果的に話の本質が見失われることもある。否定を除外することは、自分の言葉をそのままの意で上手に理解してもらうためのスキルのひとつであると思う。


次に「受け手に考え直させる」だが、これはいかに受け手が自身の思考力でこちらの言葉を飲み込んでくれるか、ということである。つまり、こちらが「〜〜である」と一方的に与えるのではなく、受け手がこちらの言葉を考えた上で間違いに気付いて納得してくれる、という状況が理想だ。先ほどの例をもう一度見てみよう。B は「先月」のことを持ち出したので、A はまずその「先月」の説明から入る。受け手の頭の中には自身の意見やひとつの物事(この場合は「先月」)が強く存在しているので、その意見を基盤として説明をするのが好ましい。
受け手の思考を促すための手段のひとつとして、何か比較するものを持ち出す、というものもある。例えば、受け手の意見 X に対して「もし〜〜が X なら、〜〜も X になりうるの?」などと持ち出せば、受け手はその意見 X が正当なのかどうか、他のシチュエーションに置き換えたとしても正解なのか、と考えることができる。そうやって受け手が自身の力で考えて、比較して、最終的に納得することができれば、真っ向から否定をせずに、しかも受け手がちゃんと理解をした上で、間違いを正すことができるのだ。

 

しかし時にははっきりと「違う」と言わなければならない状況があるかもしれない。もし否定するような言葉を使う必要があるのなら、以下のように言うとよい。

A「それはわがままだと思う。」
B「いや、それがわがままだという解釈は間違っている。」

ストレートに「わがままではない」「それは間違っている」と言うのは避けている。まわりくどいと感じる人もいると思うが、こうやって受け手の言葉をわざわざ反芻することによって得られるメリットがふたつある。ひとつ目は、具体的にどこがいけないのかを伝えることができる点。こうすることによって論点がぶれず、どこについて考え、どのように考え直せば良いのかを明瞭化することができる。ふたつ目は、「その人」自身が間違っているのではなく「その解釈」が間違っていると、人物と問題点を切り離すことができる点。わたしたちは人格否定がしたいわけではないのだ。受け手が攻撃されていると感じたらあらゆるものをシャットアウトしてしまって議論にならないので、あくまでも意見や解釈に焦点を合わせているのだと伝えなければならない。

 

多少まわりくどいやり方であっても確実に、そしてわだかまりの無いように伝えることが結果的に一番の近道になるのだと思っている。話している時はあまり意識していなかったのだが、こうして書き出すとわたしは無意識に様々なコミュニケーション法を頭の中でシミュレーションしては、最善な切り出し方を選択しているようだ。他者との衝突が増えている場合、あるいは他者がなかなか納得しない場合は、一度上記の方法を思い出して試してみてはいかがだろうか。